東京暮らしの頃、小学校3年生の娘を連れて浅草の花やしき遊園地に行ったことがある。それが娘とはじめてのふたり旅であった。なにを食べたい?と聞いたら、そばをあまり好まない娘が、「藪のかも南蛮」と答えたのにはびっくりした。前に一度食べさせたことがあったのだ。そばが嫌いでもかも南蛮は食べたいらしい。お昼前なので比較的空いており、池波正太郎がいつも座るというこあがりの奥のテーブルについた。ここのかも南蛮には肉団子が1個入っているのが特徴だ。いつももう1個欲しくなる。少し濃い目のつゆも、上品な白葱、鴨肉の脂身も良い味わいである。もし、車の運転がなければ、蕎麦味噌と焼き海苔でまず酒一本、かも南蛮でもう一本。しめはもり2枚といきたいところである。
遊園地はもちろん、浅草演芸場前の狸通りのお祭りや、アンジェラスのケーキとダッチコーヒーなども楽しい思い出だ。私の斜め後ろを、嬉々として付いてきた幼い娘の足取りがいまでもはっきりと目に浮かぶ。