繊細で上品なそばである。これ以上細くするとそばとはいえなくなるし、かといって、これよりちょっとだけでも太くなると野麦のそばではなくなるという絶妙な代物なのである。メニューはざるのみ。木戸をがらがらあけるときれいな奥さんが笑顔で迎えてくれる。席に着くとすぐさまお箸がきりっと置かれ、お茶が出される。その凛とした挙措がすがすがしい。主人は松本で有数の食通であるから、そば粉はもちろん、ひじき煮も大根おろしも葱も山葵もこだわりにこだわっている品々だ。わたしは一枚と半盛を頼むのが常だが、わたしが食べる速さにあわせて半盛が供される。できれば毎週訪れたい店だが、大変混むのでそうもいかない。週末と祭日は避けるべし。ただし、冬から春にかけての平日はすんなり座れることがある。無事座れたときのこの安堵感は、他の店では感じられないものだ。