天雲のはるばる見ゆる嶺よりも高くぞ君をおもひそめてし(天上の雲のようにはるか遠く望んだ峰よりも、いっそう高く、あなたを思い始めたことです)
元良親王は陽成天皇が譲位七年後に生まれた第一皇子。「一夜めぐりの君」などとあだ名された色好みの風流才子である。「元良親王御集」は全編女性との恋のやり取りで、冒頭には「美人と聞くと、片端から歌を贈り口説くというまめな皇子」などと書かれている。立場上皇位を望むことも不可能で、父親譲りの奔放な情熱を恋愛沙汰にかける人生を選んだのであろうか。いわば業平が半世紀後に再び現れたようなものだろう。
掲出の作は、あまりにも素朴で純情な詠いっぷりなので、贈られた女性も鑑賞する我々も気恥ずかしくなるほどだが、作者の人となりがわかると見方も変わってくる。もう恋愛にかける命なので、人目など全く気にしない貴人なのである。私には、おおらかで堂々とした歌風がむしろ格調高く感じられて好ましい。まるで万葉歌人を彷彿させる。
徒然草第一三二段に、「元日の祝い申しの儀典において、賀詞を奏するお役目を勤めた時のその声が、大極殿からはるか遠くまで朗々と響き渡り見事だった」と書かれている。さぞかし体格もよくいい男っぷりだったのだろう。
小倉百人一首の歌は、宇田院の愛妃との恋愛が人々の噂されるようになってしまい、やけっぱちになって詠んだ。
小倉百人一首 わびぬればいまはたおなじ難波なるみをつくしてもあはむとぞ思う