パーヴォ・ヤルヴィ指揮 パリ管弦楽団 協演:諏訪内晶子
曲目:ウエーバー“ 魔弾の射手”序曲
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲
ベルリオーズ 幻想交響曲
(2011年11月26日 サントリーホール)
パリ管弦楽団の音楽監督に就任したばかりのパーヴォ・ヤルヴィが、その楽団を引連れてきてベルリオーズの幻想交響曲を演奏すると聞けば、居ても立っても居られない。パーヴォ・ヤルヴィは発売されるCDのすべてが高い評価を受け、最も精力的に世界を駆け巡っている指揮者の一人である。実際、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団とフランクフルト放送交響楽団の音楽監督も兼ねており、2014年にはNHK交響楽団の監督に就任することが決まっている。N響もなかなかやるもんだ。
サントリーホールはもう何十回と来ているが、会場内へ入る度に、その華やかな雰囲気に心はワクワクする。今日の席はオーケストラを前横から見下ろす2階席である。会場はもちろん超満員で、期待感のこもったある種の緊張感が漂っている。はじめの“魔弾の射手”序曲はカルロス・クライバーの十八番であり、私にとってクライバーに勝るものは世の中に存在しない。クライバーのあの不気味な序章や終盤の歓喜と高揚感は、やはり再現されなかった。前半は諏訪内晶子の登場である。諏訪内晶子を聴くのは、ワレリー・ゲルギエフ指揮ロンドンフィルと共演したシベリウスのヴァイオリン協奏曲以来である。その時も感じたことだが、彼女が現れた瞬間、舞台が明らかに華やかとなり、きらびやかな雰囲気に変わってしまう。メンデルスゾーンのあのお馴染の旋律が奏でられたその時、まるで夢の中にいるようなフワフワとした気分になった。曲はおそらく上手に流麗に演奏されたに違いない。そんなことよりも私は、彼女の美しさとエレガントな挙措にただただ見とれるばかりであった。後半はベルリオーズの幻想。もちろん知らない曲ではないが、どこが良くてどこが悪いかなどと演奏を評価できるほど精通しているわけではない。この曲は誰がやっても同じようなものだと思っていた。しかし、どのフレーズも、この曲を聴くのが初めてであるかのような、そんな新鮮な響きとなって胸の底にグンと伝わってくる。どの音にも無駄というものがないように思われる。どんどん引き込まれる。もしかしたら、とてつもない名演奏を体験しているのではないだろうか、と思う。終演時は普段のサントリーホールの時よりもかなり大きな拍手と声援が沸き起こった。ヤルヴィもノリに乗って、3曲もアンコールをやって満足げな表情で引き上げていった。隣に座った青年とおじさんは初対面なのに、「今日の幻想は凄かった」「これを聴けて本当に良かった」などと唾を飛ばしながら手を取り合っていた。この演奏会は、雑誌“音楽の友”で2011年度のベスト1コンサートに選ばれたのであった。
終演後ロビーで、私の連れが、“千の風になって”の秋川雅史さんと息子の風雅君と談笑していた。知り合いなのだという。私もオドオドとあいさつし、握手をしてもらった。嬉しい。テレビで見るように胸をはだけ、長髪ときらきらした眼はかなり派手な印象だが、意外と謙虚で気さくな方だった。風雅君はまだ小学1年生なのにピアニストとして日本フィルと協演したこともあるのだという。ベルリオーズの幻想が好きで、今日の演奏会をずっと前から楽しみにしていたそうだ。そして、秋川親子は諏訪内晶子のサイン会の行列に並ぶために小走りで去って行った。