東京で最も多く訪れるレストランはAux Bacchanalesである。カラヤン広場をはさんでサントリーホールの目の前にあるので、コンサートが終わってから入るのに都合がよい。コンサートの興奮の余韻が残っているにもかかわらず、コンサートがもう終わってしまったという大きく空虚な心の隙間を、このレストランに行けるという楽しみが満たしてくれる。私達が行くとき、大抵は演奏会帰りの客でいっぱいだが、コンサートを終えた外国の楽団員が燕尾服を着たままカウンターで一杯やっているときもある。いつもがやがやと皆楽しそうに飲んだり食べたりしていて、全然気どらないビストロである。かといって、手を抜いた料理が出てくるわけではない。すべての料理が手の込んだしっかりしたもので、量も多くて美味しい。私が最も気に入っているのが鴨のコンフィと美食家風サラダ(鴨、豚のパテ、ホタテ、生ハム、サーモン、オリーブなどが乗っている)。とくに鴨のコンフィはこの店が最高だと私は思っている。店はいつも混んでいてウェイター達は忙しく立ち働いているが、彼らの対応が実によい。きびきびとして要領がよく、しかも注文や質問には丁寧にかつ親切に応えてくれる。
2016年の暮れ、サントリーホール30周年記念ガラコンサートの後、出演したウィーンフィルの友人ヨハン・シュトレッカーとこの店で食事したことがある。このとき、私と細君は鴨のコンフィやムール貝のワイン蒸しなどを食べたが、彼は子牛の煮込みとクスクスという珍しい料理を注文した。大きな鉄鍋に肉や野菜がごろごろ入っていて、それをクスクスが盛ってある皿にスープごと取り入れ、クスクスと混ぜて食べるのである。彼はビールのジョッキをがぶがぶ飲みながらその大量の料理を一人でやっつけてしまった。私はこれを見ていて、とても旨そうに思えてきてどうしても食べたくなってしまった。その一ヶ月後、ふたたびここを訪れ、その憧れていた料理を食べたのである。子牛は大きな塊となって鍋の中にごろっと4個入っており、その味は見た目どおり力強く、スープは香辛料が香ばしくクスクスと混ぜるとなかなか良い感じであった。私はついこれを食べ過ぎてしまって、翌日まで胸やけに苦しんだのであった。大馬鹿なる(オーバカナル)わたし。
(港区赤坂1-12-32 03-3582-2225)