1月×日
正月早々、9時から19時まで休日診療の当番です。こういう日は、なるべく暇でこたつで読書したいと切望しますが、結局、インフルエンザやウイルス性胃腸炎などの患者さんが押しかけて来ました。
最近、友人や知人に会うたびに、わざとらしいため息をつきながら、「連載しているエッセイの締め切りが迫ってたいへんですよ」などと作家気取りでいましたが、それも今月号で終わりです。でも、大手出版社の編集者がこの雑誌をたまたま読んで、「おお、すばらしい。椎名誠の代わりに、このへんてこな医者を連載エッセイに起用しよう」なんていう奇跡が絶対に起きないとも限りません。
実は、「シドニー大学放浪記」という短編を自分のホームページに掲載したのですが、恥ずかしくてとても人に言えることではありません(あっ、書いてしまった)。
1月×日
夜、愛猫のくろべえが窓から脱走しました。この猫は異常に臆病な大バカ者で、外ではとうちゃん(わたし)でさえ捕まえることができません。迷子になってしまうことだけが心配。暗闇に目を凝らすと、庭の隅で何か黒いものがぴょんぴょんしています。玄関のドアを開け放ち、走って追い回したら、自分から家の中にピューッと逃げ込んでいきました。あとで、とうちゃんに厳しく叱られました。
萩原浩の「明日の記憶」(光文社)を読みました。若年性アルツハイマー病をテーマにした問題作です。同時進行の小泉武夫の「ぶっかけ飯の快感」(ビジネス社)での極めつけは、サバ水煮缶詰を煮汁ごとご飯にぶっかけるというなんとも刺激的で魅力ある猫飯です。さっそくやってみました。
1月×日
帰郷していた大学生の一人娘が盛岡へ帰っていきました。急に家が静かになり、くろべえは遊び疲れでグターとしています。
最も好きなはなし家である6代目三遊亭圓生の全集(CD約60枚)を聴き始めました。今回は4年ぶり3回目で、はじめは怪談噺「牡丹灯籠」からです。現役でいちばんひいきにしている柳家小三治のDVD全集が最近発売されたと聞き、こころが騒いでこうしちゃいられないという思いです。
1月×日
シドニーに住んでいる友人のせつこさんとベン夫妻が松本に帰郷し、シドニーの風を運んできてくれました。せつこさんはいけ花の師匠で、ベンはカフェレストランのオーナー。せつこさんとは20年前シドニーで偶然知り合ったのですが、実は同じ年で、なんと松本出身。不思議な話ですよね。
最近復刻した「恐るべき空白」(アラン・ムーアヘッド著、早川書房)は、150年前のオーストラリア大陸縦断探検隊の実録です。酷熱の砂漠地帯で隊員がぞくぞくと死んでいく様は、まさに恐るべき空白です。「5000年前の男」(コンラート・シュヒンドラー著、文春文庫)は、紀元前3300年の凍結ミイラが南アルプスの氷河で発見されたという大事件です。考古学的な謎解きはもちろん、特にわたしには第5章の「遺体は語る」が興味深く、熟読しました。
明日もまた平凡な暮らしが続きますが、どんな本、音楽、野鳥に巡り合うかが一つの楽しみです。