「一応の推定」 / 広川純(文春文庫)★★★★★
週に一度は大型書店の中をぶらぶらと歩き回り、日光浴ならぬ“本浴”をするのが楽しみだ。このとき必ずやることは“本のしらみつぶし”(自称)だ。それは本棚の端から順に、よく知らない作家や本を入念にチェックしていくことで、次に来たときはその続きをやる。この時発見したのがこの本である。このミステリー小説は隠れた名作だと思う。戦慄する殺人事件も、意表を突くトリックも、名探偵の華麗な推理もないが、一度読み始めたらもう止まらない。ある高齢の男性が駅のホームから転落し電車に轢かれて死亡した。この男性は3か月前に損害保険に加入しており、経済的な問題を抱えていた。しかし、もし自殺なら保険金は支払われないことになる。警察は自殺なのかどうかは不明と発表した。はたして自殺なのか事故なのか。そこで、定年間際の保険調査員の主人公が調査に乗り出す。執念深い緻密な調査により、次々と新事実が明らかにされ、死亡した老人の生きざままでも浮き彫りにされてくる。主人公の立ち振る舞いや態度が見事で清々しく、保険調査員の理想的な姿が描かれている。それはそのはずだ。作者自身の職業が保険調査員なのだから。(平成29年6月)