闘魂最終章 / 井上譲二(双葉社)★★
私の、プロレスラー・アントニオ猪木への思いは、柳澤健著「1972年のアントニオ猪木」で述べたので、ここでは触れない。筆者の井上は「週刊ファイト」の記者、編集長を長年務めた人で、新日本プロレスと猪木にかなり近い立場の人であるから、猪木という人間を裏の顔まで全て知り尽くしている。その人が、興業、企画、お金、レスラー同士の関係などの面から人間猪木を語っている。その証言の真実味を伺わせているのは、筆者がプロレスを試合ではなくあらかじめ勝負が決まっている興業としてみなしていることだ。果たして人間猪木はどんな人物だったのか。それは、優柔不断で、仁義に欠け、お金にだらしない劣等系の人間なのであった。しかし、天才プロレスラー・アントニオ猪木とその人間性のアンバランスが、私にはむしろ魅力的に感じられるのである。(平成29年5月)