ローカル線で行こう! / 真保裕一(講談社文庫)★★★★
廃線が危ぶまれる東北地方の第3セクター鉄道会社に、新幹線のカリスマアテンダントだった31歳の女性が新社長として乗り込んできた。池井戸潤ほどの極端さはないが、さまざまな苦難を乗り越えた末のサクセスストーリーという予想どおりの展開だ。真保は「ホワイトアウト」などの冒険サスペンスの作家かと思っていたが、作風は多彩のようだ。最後のクライマックスの盛り上げ方はさすがにサスペンス物のようにスリルがある。山形にもフラワー長井線という第3セクターの路線がある。赤湯―長井―荒砥を結ぶ単線だ。私の故里荒砥は正真正銘の”終着駅“なのである。改築される前の質素で素朴な古い荒砥駅舎と、そこの佇む、まだそれほど老いていない母のすくっと立った姿との2つは、私にとって切っても切れない郷愁の情景である。高校時代米沢の下宿先へ戻る日曜の午後のときも、大学時代久しぶりに帰郷し数日間のんびりと過ごした後東京へ帰る夕暮れ時も、母は必ず駅まで見送りに来た。汽車が駅を離れ、お八幡様の森のふもとを通り過ぎて最上川の方へ曲がりかかるまで、ずっと立っていた。そして、今。40年以上も過ぎ去ったこの瞬間、いままで決して思い浮かぶことがなかった母の姿が、はじめて私の頭の中に映し出されたのである。それは、駅からお八幡山の裾を巡って、わずかな勾配を登って行く、わが家までの10分もかからない寂しく小さい古道を、一人で歩いていく母の、その後ろ姿。(平成29年5月)