武士たちの作法 / 中村彰彦(光文社文庫)★★★
現代の日本人は司馬遼太郎の歴史観に支配されているという。しかし、近年、さまざまな歴史学者や作家から、実はそうではなくこうだったのだ、というような司馬遼太郎歴史観を否定する見解が多く出されるようになった。たとえば司馬氏の「本能寺の変」における明智怨恨説や、幕末における坂本竜馬英雄論などのようなものだ。私はかねてより司馬遼太郎ファンであるが、史実とは異なる小説が多くあるのではないかと思い始めている。小説が史実に沿ったものかどうかは、どの資料を参考にしたかに左右される。信用できる第一級の歴史資料もあれば、庶民が面白がって読む軍記物もあれば、後の支配者が都合よく書かせた嘘だらけの資料もあるらしい。司馬氏の場合は、それらの資料を吟味せずごちゃ混ぜに使っていたようだ。中村彰彦は歴史小説家の第一人者といわれており、信頼できる歴史学者だと思っている。この本は、膨大な研究の中から、小説の主なテーマにはならなかったものの、選りすぐりのトピックスを集めまとめた本である。私はこういう本が大好きである。(平成29年5月)