遺体 / 石井光太(新潮文庫)★★★★
本書を読むために、私には6年の歳月が必要であった。この類の本は数多く出版されていたが、どうしても読むことができなかったのだ。とはいっても、実際読んでみて、涙を拭わなければ読めないところが何度もあった。釜石市では街の半分が壊滅したが、生き残った人々は必死に遺体を捜索し、搬送し、検死し、なんとか人間の尊厳を保ったまま家族のもとへ送り届けるのである。どのひとつをとっても極めて困難なことであったが、まるで天が、神様がその場に必要な人間を配置したかのように、ある人達がその現場に必ず現れるのである。しかし、もともと適任であろうはずがない。自分がやらねば、という必死の思いがその人間を重要な役割を演じる主役に引き揚げてしまうのであろう。いつか自分がもしそういう立場に立つ状況が来たらと思うと、身が引き締まる思いだ。とくに、釜石市医師会長の小泉氏が遺体を検案をする場面はとても他人事には思えないのである。(平成29年5月)