くらしのことば / 吉野弘(河出文庫)★★★
吉野弘という詩人のエッセイ集である。この詩人のことは知らなかったが、表題に惹かれて読んでみた。詩人であるから、言葉に対するこだわりは強い。そのなかでも、「静」という言葉の解釈がこの人の口にかかると、不思議にその言葉が生きて、心の中に沁み込んできた。「青が争う」となぜ「静」なのだろうと筆者は問いかける。私には解らない。以下、本文から引用する。「そこで、私は、青空を仰いでごらんとだけ云いたい。そこには青が争っていないだろうか」そして、続けて、「空の青さは決して青ペンキをぬった一枚の板ではない。底知れぬ深さをもち、嵐の海のようにひしめきあい、争うことで、あの美しい青を作り出している」と。私はこの文章を読んでから、空を見上げるたびに、嵐の海のように争っている静を探している。(平成29年4月)