ツバキ文具店 / 小川糸(幻冬舎)★★★★
鎌倉郊外で、祖母の後を継いで小さな文具店を兼ねた代筆屋を営む30代前半の女性の物語である。この本を読んでいる間は、心の隅のどこかで常に刺激してくる小さな棘の角が取れて安寧な気持ちになり、次第にほのぼのとした温かさで心が満たされてくる。そして、どんな人の話でも親身になって聞いてあげたくなり、悪ガキの頭をなでてあげたくなるほど、穏やかになっている自分に気づくのである。この小説をずっと読み続けているかぎり、静心を保つことができるかもしれないという思いになる。これはそんな小説だ。主人公が幼い頃、祖母におんぶしてもらったことを回想する場面は壽福寺の境内であるが、3週後に鎌倉旅行を計画している私としては、ぜひともこの寺を訪れなければならない。(平成29年4月)