天国のキャデイ / ジョン・フェインスタイン 小川敏子訳(日本産経新聞社)★★★★
まだキャデイの地位が低かった時代からトム・ワトソンのキャデイを30年も勤め、キャデイの代名詞のように有名になったブルース・エドワース。その彼がALSと診断された。次第に衰える筋力。2003年の全米オープン。このときワトソンはもうすでに54歳で、ブルースの身体の状態からすれば二人一緒にメジャー大会で試合できるのは、これが最後になるだろうとだれしもが考えていた。四日間の試合の第1日目。ワトソンが信じられないぐらいすばらしいプレーをする。難しい条件でのチップインイーグル、超ロングパットの成功。しかも、ボールがピン直前で止まってしまうが、ワトソンがボールを取りに歩き始めた瞬間にボールが自然に転がり入ってしまった奇跡的なバーデイー。まだ第一日目であるものの、大会新となる65という記録を54歳のワトソンが作ったのである。最終18番ホールではワトソンとエドワースが抱き合って泣いている姿があった。感動的な場面である。集まった大勢の観客はもう優勝したかのような大拍手でエドワースを称えたのである。テレビで見ていた全米の人々も涙したという。私も眼の奥がジーンとなってしまった。私は音楽を聴いて泣くことはあるが、読書で泣くことはほとんどない。唯一の事件は、吉川英治の「新平家物語」(全16巻)の最終本を読み終えたとき、滂沱の泪になったことだ。なお、この本で特筆すべきことは、小川敏子のすばらしい訳である。読み終えるまで、この本が訳本であることなどすっかり忘れ去っていたほど、自然体で良い日本語だった。(平成29年3月)