紅梅 / 津村節子(文藝春秋)★★★
吉村 昭の妻で作家の津村節子が、吉村の闘病生活と死を描いた物語である。私は吉村がどのように亡くなったかをある程度知っていたので、この本を読むのが気分的に嫌でずっと避けていた。このたび本棚の奥にあったこの本を見つけたとき、何のためらいもなく取り出して読むことができた。しかし、やはり全編にわたって暗く重い雰囲気に支配されている。吉村の最期は壮絶である。「もう死ぬ」と言って、鎖骨下静脈の点滴ルートを自ら引きむしったのである。息を引き取った瞬間、妻は「あなたは世界で最高の作家よ!」と叫んだのである。私は吉村文学の愛好家であり、彼の生き方考え方に深く共鳴する者である。自分の最期を彼のように冷静に烈しく迎えられることができればと願う。(平成28年11月)