味を訪ねて / 吉村 昭(河出書房新社)★★★★
本人曰く「私はいわゆる食通とは全く遠い人間である」。この人は理不尽に値段が高い食べ物は決して口にしない。安くて旨くてたくさん食べられるものこそ一番だと思っている。たとえば、千円以上するラーメンとか何万円もする料亭の料理などは「食べ物ではない」とさえ断言する。そして、味に関しては旨いか不味いか以外の評価はしない。このような人が食べ物の本を書いたわけだが、この人が旨いといえばそれは本当に旨いのだろうと思わせる信用の深さが吉村にはある。彼は全国各地へ取材に行く回数が最も多い作家の一人だ。取材に行く街の地元でとれる美味しいものを食べ、地酒を飲むことを大きな楽しみにしている。この本にはそのような旨くて安い食べ物や店のことが書かれている。私はこのような本が大好きである。吉村という人は特に趣味もなく、自宅では夕方から酒を飲むことが唯一の楽しみだという。その飲み方は、まずビールから始め、お酒に移り、次に焼酎の水割り、最後はウイスキーの水割りを飲み、12時にはぐっすりと眠るのだそうだ。私もこんな飲み方を一度やりたいと思い試してみたが、ビールとお酒を飲んだあたりですごい空腹に襲われ、ごはんをがつがつ食べてしまい、そこではいお終い。(平成28年11月)