脊梁山脈 / 乙川優三郎(新潮文庫)★★★
大陸から復員する途中親しくなった人が木地師で、主人公はこの人を探し求めて15年間木地師のルーツを探る旅を続ける。木地師とは深山で木を切って木目を生かした器やこけしなどを造る職人のことをいう。古代から山々を巡り歩くある特殊な集団であるらしい。古代史の謎を探る記述は、歴史に少し詳しい私でさえうんざりするところではあるが、物語の深層には日本の原風景が流れており、しみじみと惹きつけられるものがあるからこそ最後まで読み切ることができたと思う。しかし、表現が言葉足らずで曖昧な部分が少なくなく、何度も読み返さなければいけないことが不快であった。この物語に登場する、性格が正反対の二人の女性が、まことに魅力的であったことは指摘しておかなければいけない。(平成28年11月)