沈黙のひと / 小池真理子(文春文庫)★★★★
主人公は定年が近い50代の独身女性。縁の薄かった父が施設に入ったのをきっかけに、父と真剣に向き合いたいと思うようになった。しかし、父はすでにパーキンソン病でほとんど身体が動かず言葉もしゃべれない状態なのであった。父が亡くなった後、かろうじて父が使っていたワープロを形見にもらって、そこに残っていた文章を一人で読むのである。するとそこには二人の女性との深い交際があったことを物語る証拠が残っていた。そして、主人公はその二人の女性を訪れようとする。親子関係、老後、夫婦、介護など種々のテーマが問題提起されており、内容は極めて濃く、深い。この筆者の作品は恋愛ものが多い。むかし読んだことのあるミステリー風の作品ではストーリーの不自然さに呆れてしまって、この十数年間はこの作家を見向きもしなかったが、これをきっかけに見直さなければいけないという思いに至った。(平成28年11月)