握る男 / 原 宏一(角川文庫)★★★
この作家は奇想天外なストーリーテラーとして有名で、前著「床下仙人」は一気に読まずにはいられなかった。16歳の寿司職人の見習いから日本食産業のドンになり上がるという物語である。その目的のためには手段を選ばない非情なやり口には、ときにぞっとさせられる。寿司が主題なのでタイトルに「握る」とあるが、相手(敵)のキン玉を握る、つまり相手の心を握るということにも掛けられている。私は寿司が大好物なので、この中に出てくる寿司にまつわる話題や職人の技に関することが興味深かった。たとえば、職人はご飯が指に付かないように、手を一定の温度に保たなければいけないため、水道の水で冷やしたり湯たんぽで温めたりするのだそうだ。主人公は「100点の魚は3割あればよい。残りの7割は80点でも、店の格さえ保っていればプラシーボ効果で客は100点に感じてしまう。」と言っている。私はその3割の100点が解るようになってみたい。(平成28年10月)