伊賀の残光 / 青山文平(新潮文庫)★★★★
青山文平は直木賞を受賞して初めて知った。彼の本を読むのは2度目だがこれを読み終えて、これからもこの作家の本を続けて読もうと思った。作風と文体は藤沢周平に似ている。私はこういうしみじみとした文章が好きである。主人公は62歳の伊賀同心である。出身は忍びのものだが、泰平の世となり仕事がただの門番だけになってしまい、日常はサツキを育て、山に入って新種のサツキを見つけることに力を注いでいる。このサツキに関する記述はまるで植木職人が読む専門書のように詳しい。作者の小説を書くことへのこだわりと真剣さが伝わってくる。物語は、二人の同職の幼馴染が殺され、その真相を突き止めようとするものである。その過程で、これまでの自分の生き方を見つめ直し、そしてこれからどのように生きるべきかを考える。主人公が私と同年代なので、これは他人のことだと突き放した気持ちで読むことはできない。(平成28年10月)